たった二軒の八丁味噌屋、カクキューとまるや八丁味噌の工場見学
八丁味噌という食べ物
八丁味噌という味噌をご存知だろうか。
仙台みそ信州みそと並び日本の三大味噌と称される味噌の一つが八丁味噌だ。
名古屋飯といえば甘辛い味噌をとんかつにかけた味噌カツや、味噌汁よりずいぶんしょっぱい汁に入った味噌煮込みが有名なので愛知県外の方々には名古屋飯=八丁味噌という印象が強いかもしれない。
八丁味噌の定義
しかし、名古屋人のほとんどは八丁味噌を食べてはいない。
というのも八丁味噌には
“米麹や麦麹を用いず原材大豆の全てを麹にした豆麹で作られる豆味噌のうち、現在の愛知県岡崎市八帖町にて生産されてきたものを指す。”(Wikipedia引用)
という定義があり、現在製造しているのは「カクキュー」と「まるや八丁味噌」二軒のみなのである。
希少価値も高ければ、醸造に2年以上を要する製法のため高価な調味料であるため名古屋人といってもすべての家庭に八丁味噌が用意されているというわけではない。
八丁味噌を作っている会社
先ほども紹介した八丁味噌を作っている会社は「カクキュー」と「まるや八丁味噌」である。
この二社は血縁関係などは一切なく、どれだけさかのぼっても別会社だ。
所在地は互いに八丁味噌の定義通り、岡崎市の八帖町(旧八丁村)。
八丁村は岡崎城から旧東海道を八丁(870m)京都側に進んだところにあった村だ。
実際に岡崎城から歩いてみると曲がりくねりながら20分くらい旧東海道を歩くと八帖町に着く。
八丁味噌工場を比較する
所在地で比較
最寄り駅は互いに愛知環状鉄道の中岡崎駅。
まるや八丁味噌のほうが若干駅からは近く徒歩で1分程度。
その道沿いをさらに1分程度進むとカクキューがある。
グーグルマップで確認すると互いに道沿いにはないように見えているが、実際には愛知環状鉄道の高架沿いの道を進めば入館できる。
最寄り駅の路線・愛知環状鉄道は岡崎と高蔵寺をむすぶ鉄道だが、名古屋側からの出発であればこの路線を使うより東岡崎方面へ向かう名鉄を利用したほうがいいだろう。
名鉄の岡崎公園駅から愛知環状鉄道の中岡崎駅までは歩いて1分程度だ。
工場見学の受付
カクキュー | まるや八丁味噌 | ||
---|---|---|---|
金額 | 無料 | 無料 | |
予約 | 不要 | 不要 | |
団体予約 | 必要 | 推奨 | |
営業時間 | “平日10:00~16:00 br> 土日祝9:30~16:00″ | 9:00~16:20 | |
平日 | 1時間に1回(0分始) | 1時間に2回(0分と30分始) | |
土日祝 | 1時間に2回(0分と30分始) | ||
備考 | 土日祝の12:30は行わない | 最終案内は16:20 |
カクキュー・まるや八丁味噌ともに見学は無料だ。
個人での見学であれば事前予約は必要なく、当日いっても見学できる。
ただし、団体などの予約が入っていることもあるようなので確実に見たいというのであれば確認しておいた方がいい。
団体での見学は事前の予約が推奨される。
住所提示の有無
どちらも工場見学前に紙を渡される。
カクキューは大きさがA5の紙で、ここに人数と日時が記載される。
乾燥や住所・名前などを書き込む欄があり、この紙は見学後受付を行ったカウンターに持っていけばお土産の赤だしと交換してくれるシステムだ。
ただ、この紙には何も書かなくてもOK。
貰ったままの状態でカウンターに渡してもお土産はちゃんといただける。
まるや八丁味噌はA4の大きさの紙で、6問のアンケートと個人情報の記入欄がある。
待ち時間にどうしてこの工場見学を知ったかなどの事前アンケート2問と住所氏名電話番号の記入をお願いされ、書いた紙は受付に預けておく。
帰り際にもう一度受付に立ち寄り、工場見学についての残りのアンケートを記入するとお土産の赤だしがいただける。
特に難しい質問があるわけではないので、どちらも大して手間ではなかったが、DMの配送を希望しないと選択できるとはいえ個人情報を書くのが嫌だという人にはカクキューの工場見学をおすすめしたい。
まるや八丁味噌でも、内容を厳密に見ているわけではなさそうなので、DM配送を希望しないのであれば住所を市までにしておくなどの手もありそうだ。
免許証を提出しなくてはいけない、のようなわずらわしいことは特になかった。
工場見学の内容で比較する
人の多さで比較する
見学者が圧倒的に多いのはカクキューだ。
大型のバスもたくさん止まっていて、個人見学者もまあまあ多い。
今回私は平日の昼間に工場見学をしたが、カクキューの工場見学は私を含めて7名、まるや八丁味噌は3名での見学であった。
建物で比較する
登録文化財に指定された本社事務所を有するカクキューに対して、まるや八丁味噌はこれといった建物がない。
蔵もカクキューは甲子蔵という広い蔵の中を歩いて見学させてくれるのに対してまるや八丁味噌で見学できる北蔵は少々小ぶり、中に入ることもできない。
また、カクキューでは180年ほど前に作られた、現在は史料館となっている大蔵も見学できる。
敷地面積もカクキューのほうが多く、見学はできないが蔵の数も桶の数も現在では断然カクキューのほうが多いそうだ。
古き良き建物を見たいというのであればカクキューに軍配が上がるだろう。
試食で比較する
カクキューではすべての見学の後に50ccカップに1杯ずつ、赤だしと八丁味噌の味噌汁を飲み比べさせてくれる。
その後、皿に盛られた円柱型のこんにゃく田楽を一人2個くらい食べることができた。
赤だしと八丁味噌の味噌汁は飲み比べてみるとかなり味が違う。
係りの人も言うように赤だしはちょっと甘く、八丁味噌はかなりしょっぱい。
好みはあると思うがこういう機会はなかなかないので、ぜひ体験していただきたい。
こんにゃく田楽は八丁味噌をみりんで溶いただけという品だが、しっかり甘味があっておいしい。
まるや八丁味噌は見学の途中でこんにゃく田楽が給仕される。
カクキューのものは丸いしっかりしたこんにゃくに味噌が絡めてあるものだが、まるや八丁味噌の田楽は串に刺さった四角い形で食べやすい。
何よりも当日は寒い日だったので説明を止めてまでわざわざ配ってくれた出来立て熱々なのがおいしかった。
こちらのものも八丁味噌をみりんで溶いただけという品物だそう。
どちらもおいしかったが、面白みという点ではカクキュー、単純な田楽の味ではまるや八丁味噌が好みであった。
秀吉ゆかりで比較する
岡崎城といえば徳川家康の生まれた城で有名だが、さすがに生まれながらのお殿様とのエピソードは内容で、お互いに逸話は豊臣秀吉(日吉丸)のものを紹介してくれた。
まずはカクキュー。
かつて東岡崎駅にも飾られていたカクキューの看板には二人の男が描かれている。
座っている浪人風の男がその後の太閤豊臣秀吉、当時は日吉丸という幼名を名乗っていた。
対して、立って槍を持っている武士の男がのちの家臣蜂須賀小六。
場所は八帖町からほど近い矢作川にかかる矢作橋。
日吉丸が座っているムシロにはカクキューの紋が入っていることから、彼が橋の回りで寝泊まりしていた際にカクキューのムシロを盗んで使用していたと伝わっている。
続いてまるや八丁味噌。
こちらには「石投げの井戸」という井戸が残っていて、実際に井戸を開けて中を見せてくれる。
“日吉丸が野武士の蜂須賀小六のもとで悪さをしていたある日。
当店(まるや八丁味噌)に忍び込み飯を勝手に食べている姿を蔵男に見つかってしまいました。
味噌蔵の中を逃げ回っている内、頭の回転の早い日吉丸、味噌石を井戸へほおりこみます。蔵男に井戸に落ちたものと思い込ませ見事、逃げることに成功したとか。”
そもそも秀吉が「日吉丸」と名乗っていたことから疑問視されているので、実際のほどは不明だが歴史好きにはどちらも面白いスポットだと思う。
味噌の作り方の説明で比較する
カクキューでは史料館にて昔の味噌づくりの作り方を解説してくれる。
実物大の人形と、かつて使っていた道具を使用しているので迫力があるが、現在の味噌づくりについては特に語られない。
一通りの説明が終わった後に現在も醸造に使われている甲子蔵を見学させてもらえるが、肝心の味噌は一切見ることなく工場見学は終了する。
まるや八丁味噌では入ってすぐのパネルで現在の味噌づくりについて学ぶことができる。
麹菌をまぶした状態の味噌玉が真空パックになったものを持たせてもらったり、赤だしと八丁味噌の違いの説明では食べられはしないが実際に味噌を両手に持ってその違いを体験できる。
蔵の中に入る、とまでは言えないが途中で蔵の中を横断するので、実際に醸造している味噌桶を生で見ることは可能だ。
私が訪問した時は、ちょうど桶から味噌を出すところで職人さんが銀色の寸胴鍋にたっぷりと味噌を取り出していた。
なお、カクキューではこの取り出す作業はリフトを使って機械化しているそうなので、人力で取り出すところが見れるのはまるや八丁味噌だけだ。
朝ドラの舞台で比較する
どちらにも宮崎あおいが主演した「純情きらり」という朝ドラの舞台として使用された建物があるが、より多く使用されたのはカクキューの建物の方だ。
紹介パネルやサインもカクキューではたくさん展示されている。
残念なことにこれらは撮影NGなので、直接確認しに行ってもらうしかない。
ただ、中庭にあるサインやパネルはじっくり見る時間があるのだが、ガイドツアー中にしか入れない史料館の中の紹介パネルはじっくり見ている時間はそんなにない。
まるや八丁味噌の方は主演の宮崎あおいは撮影を行わなかったようで、のちに彼女がプライベートで訪問してくれた時の写真が飾られている。
こちらは撮影OKだった。
売店で比較する
工場見学をして商品知識を高めたのであれば、ぜひお土産を買って帰りたい。
カクキューの売店
道沿いに面して用意されているカクキューの売店は入りやすく、スペースも広い。
販売されているのは八丁味噌や赤だしなど通常の味噌の他、調理用の田楽味噌や味噌かりんとう、味噌ラスクなど味噌関係のものが並ぶ。
また、売店の外には「八丁味噌ソフトクリーム」という変わり種も販売していて、夏場は多くの人が買い求めているようだ。
まるや八丁味噌の売店
まるや八丁味噌の売店は奥まったところにあるのでここだけを目指してくるにはちょっと入りづらいだろう。
販売されているのはこちらも八丁味噌や赤だしなどの味噌の他、調味用の田楽味噌やドレッシング、味噌豆など味噌関係のものが並ぶ。
売店の入りやすさ、ラインナップから考えるとカクキューのほうが格段に入りやすい。
まるや八丁味噌は工場見学も無料だし、何か買わなくてはいけないのだろうか……という雰囲気にはなるが別に何も購入しなくても帰れる。
しかし、あまりにもそういうことが気になるという人にはカクキューのほうが入りやすいと感じた。
まとめ
さて、ここまでの話を総括して、工場見学に行くにはどっちがいいか?と聞かれたら私は「カクキュー」をおすすめしたい。
理由は古い建物などがみられることや、蔵の中を歩けること、試食の種類の豊富さ、売店の入りやすさなどが挙げられる。
2017年1月からは併設のレストランで味噌煮込みうどんを楽しむことができるようになるようだ。
意外に食事するところが少ない岡崎公園界隈でありがたいスポットとなるだろう。
だが、個人的に楽しかったのは「まるや八丁味噌」の方だった。
麹菌が付いた味噌玉を実際に見せてもらえたり、職人が仕事をしているところをのぞき見できたなど、現代の味噌づくりを身近に感じることができたからだ。
その他にも、数年ぶりに購入真新しい桶を見ることができたし、ガイドツアー終了後、係りの女性に旧東海道まで出て二十七曲の説明をしていただいたりいろいろな質問にも答えていただくことができた。
当日お時間があったからの対応であったであろうし、係りの方によって待遇も多少異なることだろう。
職人の仕事が見れたのも真新しい桶が見られたのも偶然だから、これらを加味して比べてしまうのはよくないと判断し、今回の結果とさせていただいた。